夜明け前にシェラフを抜け出して、暗闇の稜線に出てみました。
夜は無数の星が瞬き、遠く彼方の街の灯が輝いていたのに…
気温は氷点下5度、強烈な気流が体にぶつかってきます。
午前5時40分、そろそろ日の出の時刻ですが稜線上は濃いガス(雲)のなかのようです。
日の出の時刻を過ぎても太陽は現われません。
濃いガスと烈風のなか稜線上で待ちました。
しばらくするとガスの切れ間が現れ、雲が気流と共に東へ移動して行くのが分かりました。
するとガスのベールに覆われた太陽の光が周りの大気の色を変化させながら東の地平に現れました。
花崗岩も変成岩もハイマツもダケカンバもシラビソの森も私も、きっと数限りない偶然が積み重なって生まれた命なのでしょう。
この瞬間、幻想的な太陽の光のもとですべての命が一番深いところで繋がっているんだ。
そう感じることで私は静かに感動し、深く安らぐ思いがしました。
雲は急速に移動し、空の青い領域が増えていきます。
南の稜線を望むと、岩峰の先にある赤岳(2899㍍)も次第にその姿を見せてくれました。